芸術作品は、場所や環境、時代との関係のなかで、さまざまな時間をたどってきました。展示や公開の機会にあわせて場所を移され、記録や資料を手がかりに組み立て直され、あらためて私たちの前に立ち上がる作品もあれば、長い時間を同じ場所で過ごし、別のかたちで時間を重ねていく作品もあります。
現代の作品においては、機器の接続や調整、事前のテストや会期中のメンテナンスといった再展示に至る一連の実践が、作品の意味や存続のしかたと深く結びついている事例が数多くみられます。
本シンポジウムでは、芸術作品を「つくる」「まもる」「なおす」「みせる」それぞれの領域に関わる専門家が集い、保存修復(コンサベーション)や維持管理(ケア)の多様な実践を通して、「再起/再帰(Reactivation)」という視点から芸術作品の持続のありかたを考えていきます。
登壇者には、公立美術館で現代美術作品を収集・保管する実務に取り組みながら、数多くの展覧会の企画を担う冨澤治子、生命科学者でありバイオメディアを用いたアーティストとして幅広く活動する岩崎秀雄、MoMAにて活躍後ニューヨークを拠点とする保存修復スタジオ Two Sticks Inc.を立ち上げたロジャー・グリフィスを迎えます。本シンポジウムの共同企画者である平諭一郎と田口かおりも議論に加わり、それぞれの携わった事例を軸に「再起/再帰 Reactivation」について考察を深めます。
日 時:2026年3月28日(土)14:00–17:30(13:00– 展示作品ツアー)
場 所:京都大学 人間・環境学研究棟 地下大講義室
言 語:日本語(一部英語)
主 催:東京藝術大学未来創造継承センター、京都大学人間・環境学研究科田口かおり研究室
助 成:JSPS科研費24K03506、23K00189
参加方法:以下のお申込みフォームから参加登録をお願いいたします。(定員に達し次第、締切ります)
https://forms.gle/sW6qxG74ZpUZsh5A8

講 演:冨澤治子(近・現代美術史研究、生人形研究)
「ひびのこづえのダンス・パフォーマンス《ROOT:根》が育つ様子を見守る」
熊本市現代美術館主幹兼主査・学芸員。文化財ミュージアムIPMコーディネータ。同館就職時より、現代美術・熊本の画家・生人形の研究を開始。主な企画に熊本地震5年を記念した「こわいな!恐怖の美術館展」(2021年)。収蔵作品を中心に、近現代美術家の作品研究を継続しているが、ひびのこづえのダンス・パフォーマンス収蔵を機に、内包される可能性について考え始める。近年は、生人形研究をまとめるため調査研究・論文執筆に励む。
講 演:平諭一郎(芸術の保存・継承研究)
「中西夏之による指示書「砂絵の再生」からの再現」
文化財から現代芸術まで広く保存や修復、継承のあり方を研究している。また、創造の過程や周辺、実践知といった芸術資源から新たな表現を生み出すクリエイティヴ・アーカイヴを推進し、芸術の再現や再演、アーカイヴについての研究プロジェクトや展覧会の企画、論考、制作をおこなう。さらに、芸術、生命科学、伝統芸能、儀礼などの専門家を招いて、領域横断的に議論する芸術保存継承研究会を主宰している。東京藝術大学未来創造継承センター准教授。主な企画に、「芸術の保存・修復―未来への遺産」展(2018)、「再演―指示とその手順」展(2021)、2023年に美術出版社から同展カタログ刊行。https://taira.geidai.ac.jp
講 演:岩崎秀雄(生命科学・生命美学研究者、アーティスト)
「バイオメディア・アートにおける「再起/再帰」」
生命をめぐる科学・思想・芸術を探究する学際的な生命美学プラットフォームmetaPhorestを2007年より主宰。バイオメディア・アートやバイオアートに関わる作品制作・創作研究を国内外で行うとともに,微生物を用いて生物時計や形態形成に関する生物学研究を行ってきた。早稲田大学理工学術院教授。主著『<生命>とは何だろうか:表現する生物学,思考する芸術』(講談社,2013年)。文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞、日本時間生物学会奨励賞など受賞。https://hideo-iwasaki.com
講 演:ロジャー・グリフィス(修復師/Two Sticks Inc.代表)
「溶けない雪だるまとじっとしていられないオブジェ─フィッシュリ&ヴァイスおよびロバート・ブリアーの彫刻における〈不安定な永続性〉」
ロジャー・グリフィスは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で現代美術の保存修復に従事したのち、ニューヨークを拠点とする保存修復スタジオ Two Sticks Inc. を立ち上げ、現在も精力的に活動している。美術館、企業、個人コレクター、主要ギャラリーが所蔵する、多様な素材から構成される現代美術作品について調査・保存修復を実施してきた。国際的に幅広い活動実績を持ち、日本でも数多くの講演を重ねている。
講 演:田口かおり(美術史・保存修復学)
「再起動の条件─國府理《自動車冷蔵庫》と保存修復の倫理」
近現代美術の保存修復および調査研究に従事しつつ、展覧会コンサバターとして作品の状態維持管理にも携わる。作品の物質性と経年変化、修復介入の倫理、真正性をめぐる問題に関心をもち、科学分析・アーカイヴ調査・修復記録を横断して作品の制作過程と後史を読み解く研究を進めている。京都大学大学院人間・環境学研究科准教授。主な著書・訳書に『保存修復の技法と思想─古代芸術・ルネサンス絵画から現代アートまで』(平凡社)、『絵画をみる、絵画をなおす 保存修復の世界』(偕成社)、『どうやって美術品を守る?』(創元社)。監修展に『のこす つなぐ よみがえる 小田原市民会館大ホール壁画の記憶』(小田原三の丸ホール、2022年)、『再考《少女と白鳥》—贋作を持つ美術館で贋作について考える』(高知県立美術館、2025年)などがある。
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この取り組みは、美術作品の保存や修復業務に携わりながら、保存修復学を理論と実践の両面から研究する田口かおり(京都大学)と、文化財や芸術作品の保存修復、再現、再演を専門とし、アーカイヴから新たな表現や研究へとつなぐ平諭一郎(東京藝術大学)の共同企画です。今後も継続的に、芸術の時間性や再現性を問い直す活動を続けてまいります。これまでに、国際シンポジウム「未完の修復」(東京藝術大学、2024年3月)「芸術と生──変化・修復・記憶」(京都大学、2025年3月)を共同で開催しています。
問合せ先:東京藝術大学 未来創造継承センター(担当:平)
future@ml.geidai.ac.jp