「修復」という語には「不完全なものを、元通りになるように正しく修正する」といった、どこか厳格な雰囲気が感じられます。
しかし、絵画や彫刻のような美術作品に限らず、土器のような考古遺物や、寺社に代表される古建築、祭りや舞踊などの民俗芸能、大量生産された既製品を用いる現代的な芸術作品において、「修復」や複製による「復元(再現)」は、それぞれに異なる理念や手法が用いられているようです。
「修復」という作品への介入は、はたして唯一無二で完全な回答があるのでしょうか。人類学者の古谷嘉章さんは「未完の修復」*という語によって、ひとつの完形にこだわらない、選択の幅があるような開かれた修復のあり方を提言しています。
本シンポジウムでは「修復」というものを広く捉えて、物質的なものだけに留まらない、オリジナルとはなにか。誰が「修復」を求め、その方向性を決定していくのかについて、ともに考えていきます。
この取り組みは、美術作品の保存や修復業務に携わりながら、保存修復学を理論的に研究している田口かおり(京都大学)と、領域横断的な芸術の継承をもとに新たな表現へとつなぐ、クリエイティヴ・アーカイヴを推進している平諭一郎(東京藝術大学)の共同企画です。今後も継続的に、芸術の時間性や再現性を問い直す活動を続けてまいります。
* 参照:古谷嘉章、石原道知、堀江武史『縄文の断片から見えてくる――修復家と人類学者が探る修復の迷宮』古小鳥舎、2023年
日 時:2024年3月24日(日)14:00-17:30
場 所:東京藝術大学上野キャンパス・国際交流棟3Fコミュニティサロン
言 語:日本語/英語
主 催:東京藝術大学未来創造継承センター、京都大学人間・環境学研究科田口かおり研究室
助 成:JSPS科研費23K00189
参加方法:以下のお申込みフォームから参加登録をお願いいたします。(先着順50名に達し次第、締切ります)
https://forms.gle/RJFhqbPKxWmPZdxt7
*定員に達したため、受付を終了いたしました。 多数のお申し込みありがとうございました。
講 演:古谷嘉章(文化人類学)
「断片と複製のあいだで―先史遺物の修復について文化人類学者が考える」
文化人類学者・九州大学名誉教授。フィールドはブラジル・アマゾン。現代社会における先史文化活用についても研究。単著に『異種混淆の近代と人類学―ラテンアメリカのコンタクト・ゾーンから』、『憑依と語り―アフロアマゾニアン宗教の憑依文化』、『縄文ルネサンス―現代社会が発見する新しい縄文』、『人類学的観察のすすめ―物質・モノ・世界』。 共著に『「物質性」の人類学』、『縄文の断片から見えてくる』他。
講 演:アンドレア・ザルトリウス(現代美術 保存修復士)*オンライン参加
「On // Off―ダン・フラヴィンのライト・インスタレーション (ハンブルガー・バーンホフ国立現代美術館[ベルリン国立美術館群(SMB)])をめぐる問題を中心に」
On // Off Dan Flavin’s light installation at Hamburger Bahnhof – Nationalgalerie der Gegenwart, Berlin
ハンブルガー・バーンホフ国立現代美術ギャラリー保存修復士。専門は現代美術。ドレスデン芸術大学で絵画保存の修士号を取得。ハミルトン・カー研究所、J.ポール・ゲッティ美術館にてインターンシップを修了、Bek & Frohnert LLCでメディアアート保存のフェローシップを受講(2014年 – 2015年)。2009年から2017年まで、ヴォルフスブルク美術館の保存修復室で勤務。東京でのフリーランスでの保存修復士としての活動を経て(2017年~2019年)、現在はハンブルガー・バーンホフ国立現代美術ギャラリー(ドイツ)で現代美術の保存修復に従事。2017年から2021年まで、ケルン保存科学研究所CICSのリサーチアソシエイトとして、現代美術保存における意思決定に焦点を当てた研究に取り組んでいる。
講 演:俵木悟(民俗学・文化人類学)
「芸能伝承を「修復」することは可能か:一つの踊りの休止と再生の例から考える」
成城大学文芸学部教授。千葉大学大学院社会文化科学研究科修了。博士(学術)。1972年生。研究テーマは民俗芸能の伝承実践に関する研究、無形文化遺産・無形民俗文化財保護制度の研究、日常の移動に関する身体・空間・感性論など。2002年〜11年まで東京文化財研究所無形文化遺産部主任研究員。主な調査のフィールドは鹿児島県・岡山県・島根県・千葉県南房総地方など。主著『文化財・文化遺産としての民俗芸能』(2018年、勉誠出版)。
聞き手:田口かおり(保存修復学・美術史)
京都大学人間・環境学研究科准教授。1981年東京都生まれ。専門は、保存修復理論、保存修復史、美術史、表象文化論など。国内外の美術館にて、フィンセント・ヴァン・ゴッホなど印象派の画家たちの絵画、高松次郎や勅使河原蒼風などの日本の近現代美術作家たちの立体作品の保存修復や調査、展覧会のコンサベーションを担当。2019年、近現代美術の保存と修復、記憶を主題とする展覧会「タイムライン―時間に触れるためのいくつかの方法」(京都大学総合博物館)を共同企画。著書に『保存修復の技法と思想―古典芸術・ルネサンス絵画から現代アートまで』(平凡社2015年 第7回表象文化論学会賞)、『タイムライン─時間に触れるためのいくつかの方法』(this and that 2021年)など。
聞き手:平諭一郎(芸術の保存継承研究)
東京藝術大学未来創造継承センター准教授。1982年福岡県生まれ。文化財および領域横断的な芸術の保存、継承研究。創造の過程や周辺、実践知といった芸術資源から新たな表現を生み出すクリエイティヴなアーカイヴを推進し、研究プロジェクトや展覧会の企画、論考、制作を行う。主な企画に、「芸術の保存・修復―未来への遺産」展(東京藝術大学大学美術館、2018年)、「再演―指示とその手順」展(同館、2021年)。また、同展を記録した編著『再演―指示とその手順』を出版(美術出版社、2023年)。芸術保存継承研究会を主宰。
問合せ先:東京藝術大学 未来創造継承センター(担当:平)
future@ml.geidai.ac.jp